アニメ『平家物語』の感想・考察・解説記事を毎話更新していきます。(1話の記事を読みたい方は下にスクロール!)
皆々様こんにちは…というか、お久しぶり?(笑)
この度『平家物語』の担当となりましたgatoです。
山田尚子(『聲の形』)×吉田玲子(『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』)×サイエンスSARU(『夜明け告げるルーの歌』)という豪華すぎるコラボで紡がれる『平家物語』。
言わずと知れた日本史に残る古典文学の初のアニメ化ということで…今回からじっくりと追っていきたいと思います。
なお、今作の原作である古川日出夫の翻訳版は未読です。
後、それっぽく歴史の話も出していますが、私は歴史好きですけどマニアレベルで詳しいわけではないので、そこはお手柔らかに(笑)
武士と貴族
第1話は清盛の福原移住や資盛の事件などがあったことから、大体1168年~1170年頃っぽいですね。
この時代は平家全盛期であり、まさに「平家にあらずんば人にあらず」状態だったそうです。
ただ、第1話ではただ平家が栄えている様を描くだけでなく、「武士への蔑視」もチラホラ描かれていました。
冒頭で「武士風情が」、「卑しい」といった男の妻が禿に罰せられている場面や、忠盛のエピソードが象徴的ですね。
実際、この時代は貴族に代わって武士が勢力を強め始めたばかりであり、後白河法皇と結託して勢力を伸ばした平家でも蔑まれることはあったでしょう。
つまり平家の栄達は単純な勢力競争の勝利ではなく、身分差を覆した成り上がりの成果ともいえるわけです。
貴族(摂関家)や皇族ではなく、当時下級とされた武士が天下を差配することは、当時の感覚からするとかなりインパクトのある状況だったでしょうね。
ちなみに資盛が松殿元房に下馬せずボコボコにされた事件は「殿下乗合事件」と呼ばれ、実際にあった事件です。
ただ、清盛が報復に出たのは原作の平家物語の脚色であり、実際は激怒した重盛が報復を差し向けたともいわれています。
この辺りは平家物語があくまで創作であるが故のご愛敬…といったところですが、当時の貴族のトップが酷い目に遭わされたという点で、平家がいかに勢力を誇っていたかを如実に示すエピソードです。
平家一門
今回は部分的ですが、重盛以外の平家一門の描写もありました。
描写が少ない人物もいるので、あまり掘り下げられないですが、ちょっとスポットライトを当ててみましょう。
驕れる清盛
平家全盛期だけあって、その総帥である清盛はイキイキとしていましたね。
権勢を振るい、摂政相手でも物おじせず、「面白かろう?」と微笑みながら好き勝手やる姿は平家物語における従来の清盛像をなぞっている印象でした。
他方で、一族の前で時子(後妻)に膝枕したり、「面白うはない」といいつつ重盛をちゃんと評価していたりと、平家の長として家族には親身に接している感じもしました。
一般的なイメージを差し引けば、「周りを振り回す破天荒ながらも茶目っ気があるおじいちゃん」って思いましたね。
まぁ清盛の怖さはこれから描かれるかと思いますが…。
でも、実際清盛は日本初の武家政権を作ったといっても過言ではない偉人ですし、権謀術数に長けている人間なので多少ヤバくてもしかたないとは思いますけどね(笑)
物憂げな徳子
出番は少なかったですが、重盛の妹(異母妹)の徳子も見てみましょう。
びわを一目で女と見抜くなど洞察力がある徳子ですが、「女なんて…」と零すなど自分を悲観するような発言が見られました。
まぁ当時の女性…とりわけ貴族の子女は「いかに天皇に嫁いで次の天皇を産むか」が使命とされており、いうなれば政治の道具とされていました。
藤原道長をはじめとする摂関家が得意とした手口ですが、平家もそれにならない、徳子は後に高倉天皇に嫁ぐことになります。
自由に恋愛できず、一門のために天皇に嫁がされる…そんな自分の運命を知っているからこそ、徳子はあんな台詞をいったんでしょうね。
それに清盛が時子とイチャついている時に呆れた顔をしているなど、清盛に対しても想うものがあるようです。
今作に限らず、原作の平家物語においても徳子は重要な人物らしいので、今後も注目ですね。
重盛の子供達
重盛の子供達…左から順に維盛、資盛、清経、有盛も登場しました。
チョコンと並んで座っている様や、彼らが醸し出すアットホームな雰囲気は結構良かったですね。
当初は父の命を奪われたことからツンケンしていたびわも、重盛の家に馴染むようになっていましたが、それは重盛の優しさだけでなく、維盛達の存在も大きかったかもしれません。
汚い身なりで流浪の旅を続け、本名も知らず女であることも隠されたびわにとっては、初めてできた同年代の友達だったでしょうし。
ただ…個人的に維盛達がどんなだったかを思い出そうとして軽く調べましたが、彼らの末路ってどれも悲惨なんですよね…。
微笑ましい4人兄弟が今後どうなっていくか…ドキドキしながら見守っていきたいと思います。
名もなき少女
さて、外堀にあらかた触れたところで主人公であるびわを見ていきましょう。
びわは「未来(さき)が見える」と不思議な目(右目)を持っていますが、それだけでなく父によって性別を隠されたり、本名を知らされなかったりと、色々謎が多い人物です。
第1話の段階ではそれといった描写はなかったので、謎が明かされるのはだいぶ先になりそうな予感ですが、びわの父が彼女の未来視を「恐れていた」と語られていたところを見ると、意外とびわって特殊な出生の人間の可能性がありそうですね。
じゃあ具体的に誰なんだよといわれても言えませんけど(笑)、名前を隠すところも踏まえると、その可能性はゼロではない気がします。
ただ、未来視という破格の能力が悪用されたり、それが世に災いをもたらすことをびわの父が恐れていた…ともいえそうなので、この辺は触れるくらいにしておきましょう。
ところで、作中の合間合間で平家物語を弾き語っている白髪の女性ですが、見る限り大人になったびわって感じがしますね。
よくよく聞くと声が悠木碧っぽいですし、眼の形も彼女らしいですしね。
しかし、あの女性がびわだとしたら、重盛の家でも男の格好を貫いていたにも関わらず女性らしい格好をしていたり、白髪になっていたりと、かなり変化していることが窺えます。
後、個人的に気になったのは目ですね。
びわは右目が青色のオッドアイですが、弾き語っている女性は左目が青色になっています。
びわの目の色が変化したのか、それとも別の女性なのか…この辺りは気になるところです。
平家を背負う男
もう一人の主人公の重盛は気苦労が絶えない一面が強調されていました。
作中では破天荒な父親に振り回されている印象でしたが、史実の重盛も温和で聡明な一方、清盛と後白河法皇の板挟みになった苦労人だったようですね。
ただ、今作では清盛に振り回されつつも、彼のようになれないことに苦悩しているような一面を感じました。
実際、第1話では清盛のやり方に戸惑う一方で、「面白うはない」といわれたことを気にしていたり、清盛に対して屈託を抱いている様が描写されていました。
そんな重盛ですが、いくら負い目があったとはいえ、身元も知れないびわを引き取るところはいくらなんでも優し過ぎるのでは…と感じましたが、彼の境遇を考えると得心がつくところもありました。
重盛はこの世ならざる者=霊が見える目を持っていますが、自分の能力を恐れていると語っていました。
そんな彼にとって未来視ができるびわは同属意識を感じる存在だったのでしょう。
もちろん彼の生来の優しさや、びわの父が命を落とす遠因となった負い目、そして平家滅亡の回避のためもあったのでしょうけど、何よりも特殊な能力があったためにそれとなく抱いていた恐れや孤独を癒してくれる存在だと、重盛はびわに感じたのかもしれません。
そしてそんな重盛だからこそ、びわも心を開けたのでしょう。
特殊な能力を恐れつつも、愛情を向ける重盛の姿は、びわの父に通ずるものがあります。
確かに平家はびわの父の命を奪いましたが、ただの償いではなく、能力を含めてびわのありのままを受け容れる重盛だからこそ、びわはあの家にいることを選んだのかもしれませんね。
未来と過去
まだ第1話ですが、びわと重盛はある一点において対比的だと感じました。
びわは「未来(さき)」が見える力を持つ一方、重盛はすでに没した者達…すなわち霊が見える力を持っていました。
重盛が見る霊は、個人的に「過去」と言い換えられるかと思います。
第1話で重盛はびわの父を見ただけでなく、彼が命を落とした経緯を見ていましたし、鎧武者の霊も彼が経験した過去の戦と重ねられます。
つまりびわの能力が「未来視」だとしたら、重盛の能力は犠牲者や被害者を通じて過去を見る「過去視」と位置付けられるわけです。
この点は面白い構図になっていますね。
びわが未来、重盛が過去を見ているという点もそうですが、個人的に印象深いのが両者が見ているものの共通点です。
第1話の時点でびわは平家の滅亡を未来視しており、重盛はびわの父をはじめとする過去の犠牲者達を見ています。
つまり平家…というより重盛の視点で見るなら、一門には未来も過去も「タヒ」が付きまとっているというわけです。
これは結構絶望的な感じがしますよね…。
大仰な言い方をするなら、平家には常に「タヒ」ぬ犠牲者が生まれてくるために誇れる過去もなければ、いずれ一門そのものか「タヒ」を迎えるためにすがれる未来もないわけですから。
何はともあれ、見えているものが違う二人が今後どんなやり取りをするか、じっくり見たいところです。
Tips:平家物語
「祇園精舎の鐘の声…」という有名過ぎる出だしから始まる軍記物語です。
その名の通り、保元・平治の乱を勝ち上がった平家の全盛期と没落、そして源平合戦(治承・寿永の乱)に敗北して滅亡するまでが描かれています。
全12巻あり、第1話の内容は巻第一に登場します。
平家物語といえば、琵琶法師の語り(平曲)が有名ですが、今作で登場するびわの父親のような盲目の琵琶法師が実際に弾き語っていたそうです。
弾き語り以外にも読み物のバージョンも作成されており、中にはポルトガル語に翻訳されたものもあるとか(大英博物館に展示されているそうです)。
ただ、作者は不明であり、様々な人物が増補していったといわれています。
物語ということもあって登場人物の扱いに偏りがあったり、いささか脚色が過ぎる箇所はありますが、歴史的価値が高い古典文学です。
今作は小説家の古川日出夫が翻訳したバージョンが原作となっていますが、個人的に思ったのが今作の主人公がアニメオリジナルキャラクターのびわというところ。
かつて平家物語を弾き語った琵琶法師を連想させるキャラクターであり(実際父親が琵琶法師)、そして先述したように未来の彼女と思しき人物が平家物語を弾き語っている。
そもそも平家物語は様々な人間に語られ、増補されていった作品です。
つまり今作における平家物語は「びわの語る平家物語」であり、様々な人間に語られることで成立した平家物語の成り立ちそれ自体を上手く踏襲していると感じました。
『平家物語』第1話感想
いささか駆け足な展開な気がしましたが、それを差し引いても面白かったー!
個人的に山田尚子は大好きな監督なので、その手腕を遺憾なく堪能しました。
『リズと青い鳥』のような淡さもありつつも、登場人物に生々しさと愛らしさが混在しているところは、さすがの人物描写です。
子供達の描き方も可愛いかったですよね…。
後、ところどころ花を出してくる演出も良かったですね。
花言葉や花の種類には疎いので掘り下げられませんが(笑)、個人的に冒頭のアゲハと夏椿は印象的でした。
アゲハは平家の家紋であり、夏椿は沙羅双樹…つまり平家物語に出てくる花です。
これだけでも意義深いですが、加えて夏椿が散るところ!
椿は散る際に花ごと落ちるので「首が落ちる」花として縁起が悪いとされていました。
そして平家を連想させる夏椿=沙羅双樹が大量に散る描写…そこから連想されるのは…。
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