皆々様こんにちは。
『平家物語』担当のgatoです。
前回はびわが冒頭でいきなり父親を喪うハードな展開からスタートした後、びわと重盛の出会いが描かれました。
未来(さき)を見ることができるびわと、霊を通じて過去を見ることができる重盛…この2人の出会いが何をもたらすのか楽しみですね。
さて、今回は徳子をはじめとした当時の女性達の描写が多く見られる回のようです。
色々印象的な場面も多かったので、じっくり見てみましょう。
目次
灯篭殿のご苦労
今回は重盛が資盛の謹慎、基房の家人を辱めた者の解雇、大納言の辞任といった形で「殿下乗合事件」の後始末を行っていました。
これは原典の平家物語にも記載されていることであり、今作でも触れているように、重盛がけじめをつけたことで評価を上げたということになっています。
まぁ平家物語はあくまで「物語」なので、史実の目線から見るとこの過程も色々脚色されているそうですが、面倒なので今回は触れずに先に進めます(笑)
今回の重盛は不満タラタラで反省の色がない清盛と、平家を出し抜こうと画策する後白河法皇の間で板挟みになっている姿が描写されていました。
実際の重盛も実の父と主君である法皇の間に挟まれて苦労したとされています。
この時期(徳子の入内があるので1171年頃)の平家は全盛期でイケイケだったために傲慢でしたが、重盛は温和で主君を大事にする武人だったため、その分調整役に回らざるを得ない場面が多かったようです。
そのため父である清盛はもちろん、主君として仕える法皇も蔑ろにできず…彼の気苦労が窺えますね。
また、後白河法皇が触れていましたが、重盛は時子の子供ではなく、実の母親はすでに没しています。
加えて母親の身分が低かったために、有力な外戚(母方の親族)の後ろ盾が得られなかったため、平家の棟梁といってもその権力は決して強くなかったといわれています。
この地盤の弱さも、重盛を苦労させる一因となっていました。
いつか、また今度
今回のエピソードで印象的だったのが、びわと重盛がそれぞれ「怖いもの」について語り合う場面です。
重盛は闇(霊)が怖いとのことですが、びわが未来(さき)が怖いという辺り、彼女の変化が窺えますね。
びわ自身が未来(さき)を怖がるようになったのは、平家の滅亡が近づいているためではないでしょうか。
びわは父親を斬られた経験から、第1話では平家を嫌悪していましたが、重盛や徳子達との出会いでその感情は幾分緩和されていることが窺えます。
今回も重盛に雪ウサギを作って見せに行ったり、徳子に笑顔で駆け寄るなど、びわは彼らに心を開き、懐いているような仕草を見せていました。
そんな彼女にとって彼らが属する平家が滅びる未来は、それこそ恐ろしいものと感じてしまうでしょう。
実際、徳子との別れ際で未来を視たびわは必死に彼女を引き留めていました。
また、怖いものを語り合う場面で、重盛は「闇も未来も恐ろしくとも、今この時は美しいのう」といっていました。
前回の記事で重盛が見ている霊は「過去」を示すのではないかと語りましたが、この台詞は闇を過去と言い換えてもしっくりきそうですね。
未来も過去も、「タヒ」に満ち満ちた恐ろしいもの。
だからこそ、穏やかに生きられる「今」この瞬間が美しい。
このように捉えると、後半のびわや祇王の台詞も巻き込めます。
つまり、愛おしく美しい「今」があるからこそ、人は「いつか」、「また今度」と想う。
ただ、この「いつか」、「また今度」は決して叶うとは限りません。
実際、祇王はびわと交わした「また今度」舞うという約束を果たせませんでした(彼女の出家自体はびわにとって喜ばしいことでしたが)。
「いつか」、「また今度」は必ず叶う約束ではなく、あくまで未来に向ける希望に過ぎないわけです。
しかしそれでも希望だからこそ、人は「いつか」、「また今度」と祈りたくなる。
思えば、今作のPVで使われていた「祈りの物語」の祈りはまさにこの「いつか」、「また今度」ではないでしょうか。
そして徳子が別れ際にいった「また今度」はどうなるのか…平家の未来を知っていても、どうかその祈りが届いてほしいと思っちゃいますね。
大天狗と大入道
今回のエピソードでは後白河法皇と清盛の水面下での対立が描かれていました。
そもそも後白河法皇はこの時点で保元の乱や平治の乱といった大きな争いに巻き込まれており、平治の乱にいたっては幽閉されて政治的実権を失ったことがあります。
その後政局に復帰するものの、権勢を維持するには武士の力が欠かせないため、平家と協力をしなければなりませんでした。
しかし、その平家の権勢があまりに強すぎるために、後白河法皇ですらコントロールできないレベルになっていました。
そのため、今度は平家を抑え込むために策を講じなければならなくなっていたわけです。
そもそも後白河法皇は保守的な性格だったといわれており、既存の権力システムを打破する清盛とは政治的な方針が異なっていました。
それもあって、この時期から次第に平家と後白河法皇の対立が政局を左右する主軸になっていくわけです。
ちなみに後白河法皇が語っていた延暦寺の山法師の強訴は「嘉応の強訴」と呼ばれている事件です。
延暦寺は白河上皇の時代から時の権力者を悩ませる一大勢力であり、後白河法皇もどうにか抑え込もうとしてました。
しかし、平家は延暦寺と友好的な関係だったため(清盛の出家もサポートしています)、強訴の鎮圧に消極的でした。
そのため、この事件は平家と後白河法皇の政治的な方針の違いを浮き彫りにするきっかけになったわけです。
嘉応の強訴は殿下乗合事件が起こる以前から、平家と後白河法皇の対立が水面下であったことを如実に示す事件といえますね。
母は白拍子
出生が謎に包まれているびわですが、今回は彼女のルーツのヒントが得られました。
びわの母親は現在行方不明であり、そして祇王や仏御前のように白拍子だったとのこと。
びわが祇王を母親と勘違いしたリ、祇王の舞に見惚れていたところを見ると祇王とよく似た人物なのでしょうか。
そして母親本人であるかは不明ですが、びわと同じオッドアイで子供がいる白拍子が貴族に無理矢理連れていかれたとのこと。
まだ確定ではないですが、この人物がびわの母親である可能性が高そうですね。
それに、白拍子がびわの母親という設定にはどこか得心がつくものがあります。
びわは第1話から男子の格好をすることにこだわっていましたが、そもそも白拍子は男装して舞うものです。
びわの男子の格好をする理由は父親が女子であることを隠すためと第1話で語られていましたが、白拍子である母親の影響もありそうですね。
それに、白拍子のルーツは遡ると巫女がやる巫女舞(巫女神楽)といわれています。
かつての巫女はトランス状態になって神託を得るというものでしたが、どこかびわの未来視とつながりそうな感じがしますね。
まぁこの能力が白拍子をしていた母親譲りのものか、びわだけのものなのかは不明ですが、今作は静御前も出るようですし、白拍子は思った以上に重要な要素なのかもしれません。
ただ僕は白拍子全然詳しくないんだよなぁ…笑
女達の憂鬱
今回のエピソードは前半には徳子、後半は祇王が描かれるなど、女性の描写が多い印象がありました。
ここではそれぞれ掘り下げてみましょう。
寵愛を受けたとて
今回のエピソードの主軸だったといっていいのが、祇王のエピソードでした。
清盛の寵愛を受けるも、仏御前の登場で一気に冷遇され、追い出されて都合よく使われた挙句、母や妹と共に出家する…。
まさに権力者の気まぐれで動かされる「駒」として扱われた彼女は、同じ「駒」扱いを嘆く徳子と通ずるものがあります。
それに今回はあまり語られませんでしたが、祇王と仏御前の間には色々面白いエピソードがあるようです。
そもそも仏御前は最初から清盛に愛されていたわけではなく、祇王が寵愛を受けていたころに清盛の家に行った際は追い出されたようです。
しかし、あまりの扱いを見かねた祇王がとりなしたことで、仏御前は清盛の前で舞うチャンスを得て、即興で今様を唄って舞うことでその実力を見せつけます。
加えてその美しさもあって清盛は瞬く間に一目惚れ…そしてなんと次は祇王が冷遇され、追い出されてしまうのです。
つまり祇王は手を差し伸べた仏御前に清盛の寵愛を奪われて追い出されるという、皮肉な結果を招いているわけですね。
おまけに追い出した清盛によって、寂しがる仏御前の慰め役として呼び出されるという扱いを受け、祇王も一時は自害を考えたとか。
祇王が仏御前の前で複雑な表情を度々見せていたのは、そんな過去があったからでしょうね。
そりゃ助けた相手が自分を追い出す原因になったら…あまり正気ではいられませんよね…。
武家の妻
祇王や徳子といった物憂げな女性達が描かれる一方、気丈な人物として描かれていたのが清盛の妻の時子です。
びわを傍に置こうとした清盛に激怒し、片手で清盛を引きずり回す姿は圧巻でしたね(笑)
また「武士が貴族の真似事ですか」と叱咤するあたり、武士であることにプライドが高い人物である一面が窺えます。
おまけにびわを傍に置くことに激怒したところを見ると、祇王や仏御前など気に入った女を傍に置きたがる清盛には内心苛立っている感じもしますね。
よくよく思い返すと、第1話の祇王が舞を披露している場面で、時子の目元が意味深に映されており、その目は笑っていない感じでした。
実は祇王を前に鼻の下を長くしていた清盛に苛立っていたのかもしれませんね。
他方で時子は殿下乗合事件での基房の醜態を清盛と一緒に笑っている描写もありました。
今作の清盛は旧来の権力者を追い落として楽しんでいる姿が多いですが、時子も清盛と同じような気質を持っているといえそうです。
まぁ色んな意味で強い旦那がいるわけですから、それだけ時子も強い女であっても不思議はないですね(笑)
したたかな奥方
夫を引きずり回す時子とは対照的に、したたかな知恵者の一面を見せていたのが後白河法皇の妻である滋子です。
板挟みにされていた重盛と違い、滋子は平家の力を利用しつつ、後白河法皇に清盛が暴走するなら「蹴ってしまえ」と進言するなど、滋子は器用に政局をコントロールしようとしていましたね。
これだけ見ると時の権力者を手玉に取る策略家…という印象ですが、滋子のさらに曲者なところは彼女が時子や第1話に登場した時忠の異母妹であるという点です。
つまり血縁上で見るとなら彼女はれっきとした平家の一員であるわけです。
にも関わらず、平家の武力を利用する一方で横暴を極める清盛の排斥を匂わせているため、今作における滋子は家族の情に囚われず冷徹に事を進める人物といえそうです。
ただ、彼女は彼女で息子である憲仁を守りたいという気持ちがあったからこそ、後白河法皇を動かしているのかもしれません。
実際、平治の乱やその前にあった保元の乱はいずれも権力を巡る争いが発端でしたし、当時は武士の力がないと天皇や上皇でも地位を守れない時代でした。
そんな時代だからこそ、滋子は身内をコントロールしながら息子を守る術を探していたのでしょうね。
他方で、平家と後白河法皇をコントロールしていた滋子の存在は、裏を返せば重盛と共にある種のストッパーとして機能していたといえます。
実際、後白河法皇と清盛の方向性は異なっており、あくまで利害の一致でお互いを利用し合っているに過ぎません。
第2話でその方向性の違いが顕著になってきたにも関わらず、まだ平家と後白河法皇が衝突していないのは調整役の重盛と滋子の存在があるからこそです。
なので、滋子と重盛は図らずとも当時の政治情勢を左右する立場にいたといえるかもしれません。
徳子入内す
今回のラストで入内が決まり、高倉天皇に嫁ぐことになった徳子。
しかし彼女は妹の盛子の一件から、清盛によって政略結婚に使われることを嫌がっているような素振りを見せていました。
彼女が語った盛子のエピソードは事実であり、11歳で結婚したはいいものの、たった2年で夫の近衛基実が先立ち、ほぼ同年代の息子の母親になる羽目に。
おまけに平家と親密だった藤原邦綱が基実=摂関家の所領を大量に盛子に継承させたために、摂関家からは大非難を受け、結局24歳の若さで早世しています(皮肉にも夫の享年と同じでした)。
摂関家という当時のトップエリートの家に嫁いだのはいいですが、幸せな人生とは言い難いですよね。
政略結婚をさせられただけでなく、その後の勢力争いでも利用されているわけですから、徳子が結婚を強いられる自分の立場を嘆くのは無理からぬことです。
当時の日本は女系家族が強く、娘を嫁がせて権力者の外戚となることが勢力拡大の足掛かりになっていました。
そのためには例え自分の娘が10歳とかそこらだろうと、相手が10歳や20歳年上でも遠慮なく嫁がせることも珍しくありません。
そんな時代のために迂闊に逆らうこともできない…そんな状況だからこそ、徳子は盛子やびわといった年下の少女相手に愚痴を零していたのでしょう。
重ねる手、合わせる手
ラストでは祇王は母や妹と出家しましたが、彼女達がいる寺(往生院)を出家した仏御前が訪れ、一緒に仏に祈っていましたね(これは原典にもあるエピソードだそうです)。
祇王は白拍子として清盛の駒にされる身を悲嘆していましたが、彼の寵愛を受けていたはずの仏御前が来たことで、どこかハッピーエンドな感じになりました。
思えば、仏御前は常に祇王の到来を喜び、笑顔で迎えていました。
今作での仏御前はあまり台詞がなく、描写も少なかったですが、彼女は祇王を自分を助けてくれた恩人として慕っていたことが窺えます。
それに祇王は自分の立場を奪った…いうなれば助けた恩を仇で返した仏御前に複雑な表情を浮かべることはあれど、一度も仏御前を憎むような台詞を口にしていません。
仏御前が自身を慕っていると理解していたからこそ、祇王は彼女に複雑な心境を抱いていたのでしょうね。
しかし仏御前が祇王を慕う気持ちは本物で、寵愛をくれる清盛の元を飛び出してまで祇王の傍にいることを選んだ。
権力者に人生を狂わされても変わらない絆が確かにあることを、祇王と仏御前のエピソードは示唆している気がします。
tips:平家
今回は平家物語の主役(?)である平家について簡単に解説します。
平家というと桓武天皇をルーツに持つ「桓武平氏」が有名ですが、これ以外にも3つの平氏があり、さらに桓武平氏の下にも坂東平氏や伊勢平氏、常陸平氏といったものがあるなど、実はメチャクチャややこしい一族です。
まぁこれは源家や藤原家も同様なので仕方ないところですが(笑)
ちなみに清盛は伊勢平氏ですが、妻の時子や滋子、時忠は堂上平氏の出身であり、同じ平家でも実は系列が違います(親族ではあるけど)。
もちろん、様々な系統があることもあって平家は決して一枚岩ではありません。
例えば源頼朝に従った関東の大豪族の上総広常は房総平氏であり、本来の名字は「平」です。
なんと広常は源頼朝の父親である義朝の郎党であり(つまり源氏の武将)、平治の乱で敗れて一度は清盛に従うも、後に挙兵した頼朝に従って平家と戦っています。
このように当時は親族同士でもバリバリ戦う時代でした。
まぁ保元の乱以降、親族同士だけでなく親子・兄弟同士が戦うシチュエーションは格段に増えており、後に頼朝も義仲、幸家、範頼、そして義経と敵対して滅ぼしていきます。
平安末期~鎌倉初期は親族同士でもバリバリ権力闘争で戦い、潰し合う…ある意味戦国時代レベルでハードな時代だったといえるでしょう。
『平家物語』第2話感想
第1話は少し展開が早いかな?という印象でしたが、第2話は文句なしで面白かったですね。
繊細な心情描写はもちろん、歴史好きがニヤリとするような小ネタも散りばめてあるところがいいですね
特に鳥の羽音に驚いた維盛の描写とか…重盛は微笑ましく見ていましたが、維盛の将来を知っていると…ちょっと複雑な気持ちですね。
それにラストは結婚にネガティブだった徳子が、ついに入内。
平氏全盛の真っただ中ですが、彼らが陥る不幸の足音が徐々に近づいている感じが…。
切なさを押し殺しながら、次回を楽しみにしましょう。
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