皆々様こんにちは。
『平家物語』担当のgatoです。
前回は祇王や仏御前、徳子の視点から女性の物語が展開されました。
とりわけ祇王と仏御前は権力者に振り回された女性の悲哀を良く伝えていました。
さて、今回のエピソードでは前回から6年ほど経過しているそうです。
相変わらず全盛期を謳歌する平家ですが、その専横に不満を持つ者達が徐々に出てきたようで…。
一体何が起こったのか、じっくり振り返りましょう。
目次
重盛の子供達
前半は成人した重盛の子供達がびわと交流する場面がありましたね。
成長した彼らを見てピックアップしてみましょう。
温和な維盛
今作での維盛(これもり)は礼儀正しく、温和で気弱なキャラクターとして描かれていますが、今回は舞を披露するなど優雅な一面も描かれました。
実際の維盛も舞を得意としており、その美しさから「桜梅少将(おうばいしょうしょう)」とも呼ばれたそうです。
またイケメンでもあったそうで、当時の史料では光源氏に例えた記述もあったとか。
他方で叔父の宗盛に「武士が武芸でなく美しさを讃えられるのはどうかと」と陰口を叩かれるなど、今作の維盛は「武士らしくない」という一面が強調されている印象があります。
第2話で羽ばたいた鳥に驚いたり、資盛(すけもり)に武士としての出来の悪さをいじられている場面が象徴的でしたね。
まぁ維盛の行く末を考えると、これらの描写は重要な伏線になっている感じがしますが…。
それに維盛は鹿ヶ谷の陰謀をきっかけに平家の立場が悪くなることを予期していました。
資盛や清経が平家の権勢を盾に楽観していたのと違い、維盛は重盛のように平家の行く末を見通している感じがします。
後、維盛は何かとびわを気にかけている印象がありました。
第1話からびわと2人でいる場面が何かと多いですし、船酔いしたびわを真っ先に介抱しています。
第2話では遊んでくれないびわを前にすねている姿も見せていました。
すっかりびわは重盛の家族の一員みたいになっていますが、維盛は一際彼女を可愛がっているのでしょうね。
まぁ妹の延長線上って感じで、恋愛ってことはないでしょうけど(笑)
勝気な資盛
何かとびわと喧嘩する資盛ですが、殿下乗合事件(でんかのりあいじけん)での謹慎を引きずることなく、勝気で自信家の好青年になりました。
温和な維盛や、マイペースな清経と違い、重盛の武士としての気質を受け継いだ感じがしますね。
しかし後白河法皇と今様を唄って気に入られるなど、処世術に長けた器用さも垣間見えました。
尤も、どちらかというと伊子(いし)へのアピール目的の感じもありましたが(笑)
資盛が徳子に仕える女房の伊子に恋する話ですが、これは実際にあったエピソードであり、伊子こと建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)の歌集である「建礼門院右京大夫集」で読むことができます。
ただ、実はこの時の伊子は藤原隆信という別の男性からも言い寄られており、見事に三角関係が出来ていたそうです(男同士の修羅場はなかったようですが)。
おまけに伊子に言い寄っていた隆信は彼女より年上、資盛は彼女より年下…上からも下からも愛される怒涛のモテっぷりですよね(笑)
爛漫な清経
あまり出番はなかったですが、成人した清経(きよつね)も出てきました。
初めて船酔いを見たと語ったり、海辺で走ってはしゃいだりと、どこか世間知らずでマイペースな性格が出ていましたね。
今回は維盛の舞の伴奏として横笛を披露していましたが、実際の清経も横笛の名手だったそうです。
また、資盛も笛を吹いていましたが、このように武士が舞の伴奏をするエピソードは意外とあります。
有名な例だと、義経の愛人として有名な静御前が源頼朝や北条政子の前で舞った際は、関東で名高い武将だった畠山重忠(はたけやましげただ)が銅拍子(どびょうし)で伴奏したことがあります。
この時代の武士というと荒くれ者な印象があるかもしれませんが、意外と貴族的な趣味を持っている者も少なくなかったそうです。
高倉天皇のご放蕩
徳子を娶った高倉天皇ですが、愛人の小督局(こごうのつぼね)に入れ込んでいる場面が描かれていました。
これだけ見るとひどい旦那ですが(当時は側室が当たり前とはいえ)、実際は彼の辛い境遇が表れていると感じました。
高倉天皇は天皇といえども、当時は院政…つまり譲位した上皇(法皇)が政治の実権を握るのが当たり前だったうえに、法皇に匹敵する権力者になった清盛もいるわけです。
つまり高倉天皇は後白河法皇にとっての傀儡であると同時に、清盛にとっての平家の血を継ぐ天皇を作るための「駒」でした。
おまけに母であり、平家と法皇の仲立ちをしていた滋子が故人となったために、ダイレクトに当時の最強の権力者の板挟みになってしまいました。
それだけでも気苦労は知れないのに、前回と今回の描写を見る限り、高倉天皇は法皇とは折り合いがよろしくないようです。
実の父との不和も彼の物憂げな表情の理由になっていそうですね。
これだけ見ると今作の高倉天皇はどこか重盛と重なるところがありますね。
おまけに高倉天皇には権力欲の強い後白河法皇に対抗し、平家と組んで政治の主導権を握ろうと考えていた説もあるとか。
今回のラストで決起した重盛に通ずる説ですね。
まぁいずれにせよ、時の二大権力者に挟まれ、さらに清盛の娘である徳子が奥さんとして家にいて、子どもができることを期待されているとなれば、家から出たくなるのも無理からぬ気はします(徳子がかわいそうだけど!)
外も家も時の権力者のプレッシャーがかかるんだから、そりゃ愛人の所に逃げたくなるよね!(笑)
まぁ小督局との関係は後ほどひどいことになるらしいのですが…。
一方、家から出る時に高倉天皇が徳子に「すまぬ」と言っていたのが印象的でした。
あれを見ると、高倉天皇は必ずしも徳子を邪険にしているわけではないようです。
ここは後で徳子と一緒に掘り下げてみましょう。
徳子は未だ懐妊せず
前半は入内から6年が経っても徳子に子供が生まれないこと象徴的に語られていました。
辛辣な表現を使うなら、徳子は清盛が最も期待している「平家の血を継いだ天皇を産む」という最大のミッションがまだ果たせていないというわけです。
しかし前回の記事でも指摘したように、徳子は政治の道具として入内させられる身の上を悲嘆していました。
今回も「辛い思いをさせてしまうから子供は生まれない方がいいかもしれない」というなど、むしろ新しい天皇を産むことを望んでいない素振りを見せていました。
まぁ清盛の駒として使われることに憂鬱だった彼女なら当たり前に思うことですし、実際に生まれた子供の行く末を知っていたら…胸にくるものがありますね。
そんな徳子ですが、高倉天皇が愛人に入れ込んでいても、「窮屈な想いをしているし、心が慰められる場所があるのはいいこと」と寛大な態度をとっています。
個人的にここには徳子が高倉天皇に抱く独特な想いが反映されている気がしました。
後白河法皇と清盛に板挟みにされ、政治的な実権が全くない高倉天皇を、徳子は同じ境遇のように感じたのかもしれません。
自分の意思に関わらず、政治的な思惑で結婚させられ、政治的な駆引に利用され、おまけに二人とも父親に良い感情を抱いていない。
そう考えると高倉天皇と徳子は似た者同士であり、そんな高倉天皇の気持ちがわかるからこそ徳子は彼の愛人通いを受け容れるのでしょう。
せめて自由に誰かを愛し、想える場所を守ってあげたい…みたいな感じで。
これが徳子なりの高倉天皇の愛し方なのかもしれません。
そして、そんな徳子の想いを理解し、彼女を矢面に立たせてしまっていることへの引け目があるから高倉天皇は「すまぬ」と言い残したのでしょうね。
鹿ヶ谷の陰謀
後半は歴史に名を遺す事件である「鹿ヶ谷の陰謀(ししがだにのいんぼう)」が描かれました。
作中で描かれたように、鹿ヶ谷の陰謀は後白河法皇と近臣が平氏を倒す密談を交わしたことが漏れ、激怒した清盛によって首謀者の西光(さいこう)と俊寛(しゅんかん)などが罰せられた事件です。
ただ、近年では実際に平家打倒の密談などなく、清盛が難癖をつけて後白河法皇一派の勢力を削ぐために引き起こしたでっち上げだったともいわれています。
いずれにせよ、この事件は水面下でくすぶっていた清盛と後白河法皇の対立を決定的にするものでした。
この背景にあった白山事件などは後ほど掘り下げるとして、ここでは鹿ヶ谷の陰謀の影響が重盛に与えた影響について触れてみましょう。
鹿ヶ谷の陰謀には重盛の義兄であり、維盛の舅(しゅうと)である藤原成親が関わっていました。
つまり重盛の親族が絡んでいたわけです。
親族が反平家の一派にいたことは致命的なスキャンダルであり、その後の成親の末路は重盛に大きなショックを与えることになります。
というか、この成親って第2話で起こった嘉応の強訴(かおうのごうそ)の原因になったりと、結構やらかしている人なんですよね(笑)
まぁ嘉応の強訴は原因の大元が後白河法皇ともいえるので、一概に彼が悪いともいえませんし、成親は親族であると同時に後白河法皇の窓口になっていたので、重盛は懇意にしていたようですが。
ところで、後白河法皇達が語らう場面で初めて「源氏」という言葉が飛び出しました。
おまけに一瞬頼朝と思しき人物が映されていましたね。
いよいよ平家を滅ぼす源氏が出てくることになりそうです。
重盛決起
ラストでは鹿ヶ谷の陰謀で激怒した清盛が後白河法皇を幽閉しようとしたために、いよいよ重盛が身体を張って清盛を制止する事態になりました。
この時重盛が発した台詞は「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」という彼の有名な台詞から引用したものです。
重盛は後白河法皇への忠義を優先して清盛を制止したようですが、個人的には彼なりの平家を守る術だったようにも思えます。
ただでさえ平家は専横を極めていたために多くの反感を買っており、敵が増えている状況でした。
その状況で主である後白河法皇に強硬手段を取れば、完全に平家は一線を超えてしまいます。
もちろん武家を下に見る西光のような人物がいたり、神聖な神輿を攻撃してしまうリスクを承知で山法師の鎮圧を命じた後白河法皇にも非はありますが、これ以上平家への心証を悪くすることはできない。
だからこそ重盛は身を挺して清盛を止めようとしたのでしょう。
しかし、これは同時に平家の棟梁といえど政治的基盤が脆弱な重盛にはリスクが大きすぎる行為でもあります。
おまけに鹿ヶ谷の陰謀で親族の成親が捕えられている以上、この行為は重盛の政治的命脈に多大な影響を与えるのは自明です。
そしてこの一件をきっかけに重盛は立場を悪くしていきます。
変わらぬびわ
今回のびわはどちらかというと傍観者という立ち回りでしたが、色々印象的な場面がありました。
まず徳子に指摘されていたように見た目が全然変わっていません。
重盛の子供達の成長ぶりを見ると、もう少し大人びてもいいはずですが、ほとんど変わっていない感じがしますね。
徳子に懐いている様子も、6年前とあまり変わりない印象です。
これらの点を見ると、成長が止まっている…というとストレート過ぎますが、意図的にびわは外見が変わらないように描かれている気がします。
実はびわは不老なんだ…なんてとんでも理論を持ちだす気はないですが、個人的にはびわは「変わらぬ今」を示す存在として描かれているのではないか…というのが今の所の解釈です。
平家の人々は周囲の状況も、自分自身ですらも、時の流れと共に変わっていきますが、それでもびわは変わらぬままいる。
そこに人々は喪われた、そして同時に尚も存在している「今」を垣間見る…みたいな。
ちょっと抽象的過ぎますね(笑)
ただ解釈が固まっていないから、今はここまでしかいえない(笑)
後、余談ですが、やっぱりびわは重盛を父と重ねているところがありますね。
重盛の行く末を考えると、びわは2度父親を喪うともいえますが…そこがどう描かれるか楽しみです。
tips:山法師
第2話からちょこちょこ出てきている山法師ですが、清盛と後白河法皇の対立はこの山法師が要因の一つといっても過言ではありません。
そもそも山法師は延暦寺(えんりゃくじ)のような有力な寺が要求を押し通すために動員した武装した僧のことを指し、白川法皇の頃から時の為政者を悩ませてきました。
後白河法皇が第2話で口にした「鴨川の流れ、双六の賽の目、山法師」という言葉は「天下三大不如意(てんかさんだいふにょい)」といって、白河法皇が残した言葉です。
さらにこの山法師達が暴れるものだから、白河法皇は「北面の武士」という独自の組織を設立して強訴の抑止にあたらせました。
この「北面の武士」が武士の勢力拡大の契機となるわけです(つまり山法師は武士の権力拡大の一因ともいえます)
ただ、『平家物語』の時代の山法師が暴れる理由はぶっちゃけ後白河法皇が原因の一面もあります。
そもそも後白河法皇は延暦寺と対立関係にあった園城寺(おんじょうじ)に帰信したため、延暦寺を冷遇していました。
これに延暦寺が常々苛立っており、これに荘園抑止政策への反発が重なって嘉応の強訴が起こっています。
加えて、後白河法皇の近臣である西光の息子である師高(もろたか)と師経(もろつね)が延暦寺に関連する寺を焼いちゃったもんだから延暦寺はさらに激怒…今回起こった白山事件につながるわけです。
園城寺びいきということもあって後白河法皇は延暦寺を疎ましく思っていましたが、厄介なことに当時最大の軍事勢力だった平家の清盛は延暦寺びいきでした。
そのため、清盛は延暦寺を抑え込むことには消極的であり、このギャップが両者の対立を深める原因となります。
おまけに山法師は鹿ヶ谷の陰謀にも絡んできます。
今作では描写されていませんでしたが、白山事件や安元の大火の後、後白河法皇は延暦寺の天台座主(てんだいざす)、つまりはトップだった明雲を流罪にしようとしますが、重盛達平家が明雲を強奪した事件がありました。
この時点で延暦寺の扱いを巡って清盛と後白河法皇が完全に衝突していることが窺えます。
この一件に激怒した後白河法皇は、なんと延暦寺攻撃を平家に命じたそうです。
当時の日本は信仰心が強いのもあって、寺社への攻撃は仏罰が降るタブーとして扱われていました。
後白河法皇は最大のタブーを、よりにもよって延暦寺と仲が良い平家にやらせようとしていたわけです。
これもあって、清盛と後白河法皇の対立は激化し、鹿ヶ谷の陰謀が起こったわけです。
こう考えると、山法師を含めた寺社勢力が当時の政局が動かすファクターの一つになっていたことがわかります。
『平家物語』第3話感想
いやー平家の行く末に不穏な気配しか感じないですね(笑)
ほのぼのする描写が減り、徐々にきな臭さが漂ってきています。
おまけにもう時代は1177年!
だとしたら重盛はもうじき…。
次回から怒涛の展開が目白押しになりそうですね。
いずれにせよ、清盛と全面対立したことで重盛がどうなるのか、注目です。
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